海外旅行から帰国後の発熱への対処

海外渡航者が帰国後に発症した発熱したケースを集計した欧米機関の報告によると、発展途上国からの帰国者の2~3%に発熱が認められ、その原因の半数以上は感染症となっています。

熱帯性マラリア等に注意

感染症の起炎菌としては、マラリアが最も頻度が高く、以下、気道感染、下痢、デング熱、肝炎が続いています。欧米人と比較してアフリカ諸国を旅行先と選ぶ日本人はまだまだ少ないので、マラリアは比較的少ないとされています。

病気の鑑別の際に重要な情報は症状が現れるまでの潜伏期で、短期・注記・長期・超長期の4期に分けられます。短期のものとしては1~2日のインフルエンザ、1週以内の髄膜炎菌性髄膜炎や黄熱があります。1~2週間の中期としては、熱帯性マラリア、デング熱、腸チフス・パラチフス、レジオネラ、SARS、破傷風、日本脳炎、アメーバ赤痢、エボラ出血熱などがあります。

2週間以上2ヶ月以内の長期には、A型肝炎、E型肝炎、Q熱が、2ヶ月以上の超長期としてはB・C型肝炎、結核、HIVがあります。しかし、中には潜伏期の幅が広いものがあり、マラリア、アメーバ赤痢、狂犬病は2週間から数ヶ月、場合によっては数年の間潜伏していることがありますので、あくまでも診断の目安と考えます。

次に重要なのは、感染形式です。蚊、犬などの動物の刺咬・接触、土壌との接触、不衛生な飲食物、注射の有無などが確認されます。その他の情報として、既に受けた予防接種の日時・回数、ワクチンのタイプ、WHOやCDCの感染症流行情報と旅行先の照合、マラリア予防薬の内服状況などが役に立ちます。

初診時に必要性の高い検査は、白血球数、好酸球数、血小板数、肝機能、血液培養(尿検査、胸部エックス線写真)です。検査所見の特徴としては、多くのウイルス性疾患、マラリアでは白血球数は正常もしくは低下を示します。チフスでは好酸球数が減少し、寄生虫の中でもぜん虫では増加することが多いですが、マラリア、アメーバなどでは増えません。

海外渡航後の発熱患者の診断で最も重要な古都は、5日以内に治療を受けないと致死率が50%を超えるとされる熱帯性マラリアを見逃さないことです。血液検査や簡易診断キットにより診断できますが、専門病院を紹介されることもあります。

旅行先における子供の食物アレルギー

旅行における楽しみにひとつとして、その国・地方の食べ物を愉しむことを挙げる方も多いと思います。しかし、食物アレルギーがある子供にとっては、食べても大丈夫なものだけが食卓に出される過程とは違って、旅行そのものが苦痛となることがあります。

食物アレルギーを起こす原因物質(アレルゲン)は食生活や体質によって異なるため、国や地域によって特色が見られます。アメリカではピーナッツ類が原因の第一として挙げられますが、魚介類をよく食べる至りやフランスでは魚介類が、そして日本では鶏卵、乳製品、小麦が三大アレルゲンとなっており、次いで蕎麦、魚介類、果物類、エビが挙げられています。最近は欧米のようにピーナッツ類による食物アレルギーも増えて着ています。

基本的に原因物質は個人個人によってその種類や程度が異なるのでその確認をすることが大切です。緊急時に備えて、看護師に目的地周辺の医療機関を予め調べてもらったり、旅行の出発前に医師の診察を受け、ステロイド薬や抗ヒスタミン薬などの緊急用の常備薬を処方してもらうことも大切です。

除去の目安となるアレルギー物質を含む食品表示に関しては、日本の取り組みは早く、平成13年の食品衛生法関連法令の改正に伴い、アレルギー物質を含む食品の表示が義務付けられました。欧州ではフランスのアレルギー予防協会などが中心となって、甲殻類、魚類など12の物質の表示に取り組み、EU加盟国の関係団体とEUレベルでの実現を目指していますが、海外におけるアレルゲン表示は十分ではありません。

海外で増加する病院のM&A

医療の分野に資本主義の考え方をいち早く導入している海外の病院では病院の買収による合併・統合が非常に活発に行われています。自国の民間医療市場は頭打ちと判断した南アフリカ共和国のメディクリニック社は、海外進出への足がかりを得ることを目的に、スイスの民間病院グループ(ヒルスランデン社)を買収してスイスへ進出を果たしています。

一方、日本におけるM&Aでは、後継者不足や地域のライバル病院との競争に敗れて経営難に陥った病院から求められる形で事業を継承する救済型タイプが主流となっています。買収する側にとっても1から新病院を開設するよりも初期投資を低く抑えることが出来るというメリットがあります。

病院のM&Aのメリットには、第一にスケールメリットによる医薬品や医療機器の仕入れ等に関する価格交渉力の強化が挙げられますが、もうひとつは継続的な人材育成のための環境を手に入れることができるという点です。一般企業と違って、支社や営業所、別会社、新規事業を柔軟に創設することができず、病床規制もある病院はM&Aで子の状況を打開することができます。

従来は特定の病院グループが中小病院を傘下に納めて拡大する手法としてM&Aが行われてきましたが、今後は中小病院が手を組んでグループ化を図る戦略的な手法が増えてくる可能性があります。100床規模の病院が合併し、500床規模の病院へ再編することで、地域に必要ない両機能の整備や人材育成のための環境等などの整備を進めることが可能になります。

日進月歩の大腸がん治療

大腸がんの治療は日進月歩で、数年前は最先端医療だったものが、今は標準治療になっているものも少なくありません。例えば、最初に「大腸がん治療ガイドライン」が2005年当時は早期大腸がんだけに限定されていた腹腔鏡手術が、2009年版では一部の進行大腸がんの治療法として明記されました。

2010年版で大きく変わったのは化学療法です。前回のガイドライン改定以降、新しい抗がん剤が認可されたり、従来の治療薬の適応が広がったりして、化学療法の選択肢が増えたためです。具体的には、①手術後の再発を防ぐ「術後補助化学療法」にオキサリプラチン(エルプラット)という抗がん剤が使えるようになった、②再発・転移がんの二次治療で使用されていたセツキシマブが一次治療でも使用できるようになった、③セツキシマブと同じタイプの分子標的薬、パニツムマブが国内で使えるようになった、などが挙げられます。

日本の大腸がん治療は治療成績で世界のトップですが、患者が増えていることもあって、専門病院だけで診ることは難しくなっています。ガイドラインは一般の病院でも専門病院で推奨されている治療ができるよう、その方向性などを示したものです。最新の治療法は載っていませんが、推奨されている治療を行えば、専門病院と同じように高い治療成績が得られます。