HPV(ヒトパピローマウイルス)の感染と子宮頸がんの発症

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚や粘膜に感染して、イボを形成するウイルスです。HPVには今日までに100種類以上の血清型が確認されており、がんの発症リスクによって「低リスク型」と「高リスク型」に分類されてます。

子宮頸がん検診が大切

性行為を介してに感染するHPVは、子宮頸がんの発生に関係が深く、特定の15の型(16、18、31、33、35、39など)が、高リスク型の子宮頸がん関連HPVとして知られています。高リスク型のなかで、日本人に検出頻度が高いのはHPVの16型と18型で、この2種類だけで子宮頸がんを発症している女性の約70%を占めるとされています。

なお子宮頸がんの原因とはならない低リスク型のHPVには、性感染症(STD)の一つである尖圭コンジローマの原因となる6型と11型がよく知られています。

HPVの感染自体は非常にありふれており、30歳未満の女性の感染率は15~25%程度もあり、50~80%の女性が一度は感染するとされています。通常、感染したHPVは免疫機能によって異物として体外に排除されたり、粘膜細胞に感染した場合には、細胞分裂とともに表皮の上層に移動するため、表皮が剥がれ落ちるのと一緒に排除されるため、全く心配いりません。

仮にHPVに感染したとしても、10~20代の約70%は1年以内に、約90%が2年以内にウイルスは排除されるとされています。しかし、残りの約10%の感染者ではHPVの持続感染が起こり、その原因が高リスク型のHPVであることがわかってきました。HPVに持続感染した細胞が、どのくらいの割合で前がん病変に進行するかは、感染したHPVの型によって異なっており、最も効率なのがHPVの16型で約40%、残りの型の場合は約10%程度とされています。

子宮頸がんは早期の発見で完治が期待できるがんですが、子宮頸がん検診の受診率は依然として低いままです。20歳を過ぎた女性は自治体の公費助成で検査を受けることができるので、ぜひ活用しましょう。

乳がんの再発と遠隔転移を調べる検査

乳がんの患者さんの多くは、手術で目に見える病巣を切除した後も、再発と転移のリスクが残ります。乳がんの再発と転移には、手術を行った部位やその周囲に起きる「局所再発」と、脳や肺、肝臓などのほかの臓器に起きる「遠隔転移」があります。

乳腺外科と放射線科の医師

乳がんの局所再発は、乳房温存手術で残した乳房、切除後の胸壁、乳房に近いリンパ節に起こります。遠隔転移は全身のどこにでも起きる可能性がありますが、乳がんは脳、肺、肝臓に多く起こります。乳がんがある程度進行してから発見された場合、診断の時点で遠隔転移が起きていることもあります。

肺がん、胃がん、大腸がんなど、一般的にがんは手術を受けてから5年間再発が見られなければ、治癒の可能性が高いため、その後も再発の心配はないとされています。しかし、乳がんの場合は進行が遅いがんもあるため、5年以降に再発するケースもあります。

特にホルモン受容体が陽性となる乳がんでは、術後に5年間ホルモン療法を行った患者さんよりも10年間行った患者さんの方が生存率が高いという報告もあることから、10年経って再発がない場合は治癒の可能性が高いと考えられています。

採血による腫瘍マーカー検査を定期的に受けて、再発の兆候をチェックしている方も少なくありませんが、腫瘍マーカーで異常値が現れない乳がんも約2割ほど存在するため、過信は禁物です。腫瘍マーカーだけでなく、乳がんの画像診断であっても、本来はがんがあるのに異常なしとなる「偽陰性」、がんがないのに異常を示す「偽陽性」の可能性が生じます。何度も検査を受けることは混乱と不安を招いて、逆効果になることがあることを覚えておきましょう。

乳がんは、脳、肺、肝臓に転移しやすいため、シンチグラフィーやPET検査で全身のがんを一度に検査したいという方も少なくありません。しかし、シンチグラフィーやPET検査で検知できるのはがんがある程度の大きさになってからです。

術後の経過観察にこれらの画像診断を行って、仮に早期に乳がんの遠隔転移を発見できたとしても、現在の治療技術では、自覚症状が現れてから治療をした場合と患者さんの予後は変わらないことがわかっています。ただし、局所再発した乳がんに限れば、早期発見で根治治療も可能です。しかし、費用対効果の面、患者さんへの負担を考えると、年1回のマンモグラフィーと医師の診察を受けた方が賢明です。

遠隔転移した乳がんの小さな病巣が発見された場合、必ずしも手術で病巣を切除するわけではありません。画像診断ではがんが一つだけしか検出されなかったとしても、見えないがんが全身に広がっていると考える必要があるからです。こうした場合、手術可能な状態であっても、薬物療法で全身のがんを抑えるという治療法がとられます。

乳がんの診断はマンモグラフィ撮影が基本

乳がんの患者数は年間約4万人、死亡者数は約1万人となっており、この50年で約2~3倍と急激に増加しています。それでも欧米諸国に比べると人口10万人当たりの患者数は1/3程度ですが、今後も増加すると考えられています。


検診の受診を促す啓蒙運動

現在、乳がんは部位別の罹患率でみると第1位のがんとなっています。乳がん検診やマンモグラフィーや乳腺エコーなどの画像診断技術の進歩によって、従来は発見できなかった乳がんが多く見つかるようになったという見方もできますが、乳がんそのものが増えていることは間違いありません。

乳がん増加の背景には、高カロリー・高脂肪の食生活、晩婚化、障害の出産回数の減少などのライフスタイルの欧米があるとされています。乳がんの発症には女性ホルモンが深く関係していると考えられています。初潮の低年齢化と、晩婚・少子化に伴う初潮から第一子出産までの期間が長期化することで、月経のある年月が長い、すなわち女性ホルモンの活動期間が長くなくることで、乳がんの発症リスクが高まってしまいます。

乳がんの検査は、まず乳腺外科の医師がしこりを確認したり、乳頭のただれや変形がないかをチェックする「視触診」が基本となります。しこりの上の皮膚のひきつれ、エクボ状のへこみも重要な所見となります。腋窩、鎖骨上のリンパ節などの触診も行われます。

次いで被ばく量の少ないX線を利用したマンモグラフィで画像診断を行います。また超音波(エコー)診断も有効です。マンモグラフィは、触診では発見が困難な乳がんを微細石灰化という所見で発見する点では有効ですが、若年層のように乳腺組織が豊富な場合は超音波検査の方が優れています。乳頭から血が混じった分泌液が出る場合、分泌液の中にがん細胞がないかどうかを調べるために「細胞診」も同時に行います。

これらの検査でほぼ診断がつきますが、乳がんの疑いが残る場合は、しこりの部分に針を刺して細胞を吸引し、顕微鏡で調べたり、太い針で少量の組織を吸引採取する方法(マンモトーム生検など)という方法もあります。しかしこれらの検査でも診断がつかない場合は、しこりをとって調べる試験切除を行います。

近年はこれらの診断に加えて、乳房内の乳がんの広がりの程度を判定し、乳房温存療法で切除範囲を正確に設定するためにMRIやCTなどの検査も行われます。また、乳頭分泌物に血が混じっている場合は、乳頭から細い内視鏡を挿入して乳管の中を観察する「乳管内視鏡」という検査もあります。