乳がんの再発と遠隔転移を調べる検査

乳がんの患者さんの多くは、手術で目に見える病巣を切除した後も、再発と転移のリスクが残ります。乳がんの再発と転移には、手術を行った部位やその周囲に起きる「局所再発」と、脳や肺、肝臓などのほかの臓器に起きる「遠隔転移」があります。

乳腺外科と放射線科の医師

乳がんの局所再発は、乳房温存手術で残した乳房、切除後の胸壁、乳房に近いリンパ節に起こります。遠隔転移は全身のどこにでも起きる可能性がありますが、乳がんは脳、肺、肝臓に多く起こります。乳がんがある程度進行してから発見された場合、診断の時点で遠隔転移が起きていることもあります。

肺がん、胃がん、大腸がんなど、一般的にがんは手術を受けてから5年間再発が見られなければ、治癒の可能性が高いため、その後も再発の心配はないとされています。しかし、乳がんの場合は進行が遅いがんもあるため、5年以降に再発するケースもあります。

特にホルモン受容体が陽性となる乳がんでは、術後に5年間ホルモン療法を行った患者さんよりも10年間行った患者さんの方が生存率が高いという報告もあることから、10年経って再発がない場合は治癒の可能性が高いと考えられています。

採血による腫瘍マーカー検査を定期的に受けて、再発の兆候をチェックしている方も少なくありませんが、腫瘍マーカーで異常値が現れない乳がんも約2割ほど存在するため、過信は禁物です。腫瘍マーカーだけでなく、乳がんの画像診断であっても、本来はがんがあるのに異常なしとなる「偽陰性」、がんがないのに異常を示す「偽陽性」の可能性が生じます。何度も検査を受けることは混乱と不安を招いて、逆効果になることがあることを覚えておきましょう。

乳がんは、脳、肺、肝臓に転移しやすいため、シンチグラフィーやPET検査で全身のがんを一度に検査したいという方も少なくありません。しかし、シンチグラフィーやPET検査で検知できるのはがんがある程度の大きさになってからです。

術後の経過観察にこれらの画像診断を行って、仮に早期に乳がんの遠隔転移を発見できたとしても、現在の治療技術では、自覚症状が現れてから治療をした場合と患者さんの予後は変わらないことがわかっています。ただし、局所再発した乳がんに限れば、早期発見で根治治療も可能です。しかし、費用対効果の面、患者さんへの負担を考えると、年1回のマンモグラフィーと医師の診察を受けた方が賢明です。

遠隔転移した乳がんの小さな病巣が発見された場合、必ずしも手術で病巣を切除するわけではありません。画像診断ではがんが一つだけしか検出されなかったとしても、見えないがんが全身に広がっていると考える必要があるからです。こうした場合、手術可能な状態であっても、薬物療法で全身のがんを抑えるという治療法がとられます。